レディ・ジョーカー 中巻(新潮文庫)

シリーズものを読んでいると、登場人物について記憶があやふやになるため、書き留めておくシリーズ。合田雄一郎、加納祐介編。

 

上はこちら

rakatti.hatenablog.com

 

 第三章 一九九五年春 事件

合田は勝手に非喫煙者かと思っていたのですが、2回タバコを吸うシーンがありました。

 

5月5日金曜日。

夜公園で1時間ほどヴァイオリンの練習を無心にする合田。

気づくと公園を横切る人影を眺めなら、加納が前回いつ来たのか考え始める。

火曜日か水曜日か。

結構な頻度ですね。というか、ぼんやりと無意識に誰かのことを考え始めるその対象が加納とは。

この時、加納が上司の付き合いでゴルフを始めて1年経つが対して上達していないこと(ボールを半ダース失くした)、つい最近買った車がワーゲンのゴルフだと分かる。 

 

7日日曜日は、加納が合田を連れて根来と会う。

三年前に一度会っただけの義弟は、実は根来の記憶にある男の顔とはかなり違っていたが、「合田です。その説はたいへんお世話になりました」と自分から先に会釈した丁寧な物腰も、別人のような落ちつき方だった。なるほど、所轄へ飛ばされて人生勉強をしたか。いや、これは以前にもまして硬い殻を被ってしまった顔だろうか。いや、少し大きくなった器のなかに己を完全に包み込んで、外には何も漏らさなかったということだろう

すぐに続いてその目に出会うと、以前にもまして何が詰まっているの分からない複雑な陰影は健在で、そこにいまは少し空虚も交差しているのか、醒めているような生々しいような、実に微妙な感じがした。そうだ、外側を覆っている無味乾燥な殻と、この不安定そうな目のアンバランスが、なんとも抗しがたい引力になっているのだと根来は分析したが、ともかく、こんな微妙な目に見つめられたら、理屈抜きに殴りつけたくなるか、魅入られるかどちらかだ。なるほど、元義兄である検事は魅入られた口かなと、初めてそんなことも考えた。

 そして加納という検事も、恬淡とした表情の下に、なかなか複雑な内面を抱えていそうな人物ではあるのだった。検事としては、法解釈や運用面での慎重さと、敗訴を恐れない攻撃性が理想的な形で共存しているタイプだが、単純に社会正義や秩序を信奉しているようにも見えず、特捜部内の派閥に平然と一線を引いていることからも、むしろ間違って体制側に見を置いてしまった心の自由人のようにみえることもある。(中略)

実際、この検事が私人として本の話を始めると、検事という職業とは折り合わない詩人の夢想や、はたまた経験主義的な懐疑論が顔が出すのは、根来もよく知っていた。また、連日遅くまで庁舎にいることから見ても私生活がほとんどないのは確かだが、それでも、ごくわずかなやり取りの中に元義弟に対する親密な情を覗かせるとき、この検事は確かに生身の何者かになるのだった。無意識に人を所有し、庇護する立場に立ちたい男の本能。あるいは将来の世話好きな性向。あるいは、人知れず積み重なってきた人間関係の歴史。あるいは、ひょっとしたらそんなこともあるのかも知れない、一人の男に対する「ほ」の字。

 うーむ、根来さん『照柿』にも出てきてた?

第四章 一九九五年夏 恐喝

5月12日金曜日。

合田は日之出ビール社長の城山のボディガードとして、城山の仕事中は一緒に行動している。

常に三歩後ろに控え、感情を表さず淡々と城山についてまわる合田。

神奈川工場に併設されている技術研修センターの巡回に城山が行った時、瓶詰め前の出来たてのビールを合田に勧めると笑顔を見せ、気持ち良い応じ方をして城山は合田に好感を持つ。

一口、ビールの喉ごしを味わった直後、合田の顔は自然とほころび、白い歯をはじけさせて「へえ」と感嘆の声を漏らした。 そして、コップ一杯をその場ですうっと呑み干すと、「これは本当に美味しいですね」と呟いた。この男はアルコールを嗜み、しかも呑み方も知っているなと城山は見て取ったが

 

5月13日土曜日。

ゴルフする城山にお供したあと、帰宅すると家で加納が掃除機をかけ、ワイシャツにアイロンをかけながら待っている。

ああ、こういう人私も欲しいなあ。

加納という男が昔から人の洗濯物にまでアイロンをかけ、たたみ直してゆくのは、たんに自分自身の行動半径にあるものを機械的に整理してゆくようなもので、特別な意図もないのだったが、合田がそうと理解するまでには長い年月がかかった。

そうなの?稀有な人ですね。

夕食の支度だけでなく日本酒もきちんと冷やしてある完璧な加納。

合田は冷酒をすすり、豆腐に箸をつけて「美味い!」と言った。加納も「美味い!」と、きれいな笑顔を弾けさせた。加納が笑うと、目から口元まで双子の妹そっくりだった。

 

6月23日金曜日。

合田は城山に状況を打ち明けるよう強く迫るが断られてしまい、明日からは来なくて良いと言われる。

その帰りで考えたのは、久しぶりに加納を呼び出して飲もうかなと言うことだけ。

 

日付が変わる頃に仕事が終わるという加納に、飲みに誘うのは諦めた合田だが、結局合田の家で会うことに。

冷蔵庫の残り物のじゃがいもをアンチョビと炒めて、サッと一品作る加納。

ああこの人は本当に料理するのが好きなのだなと思わせるシーン。夜中の12時過ぎに料理なんかしませんよ私は。